村上春樹とすごした心地のよい京都の春のひと時 – 2013年の幸運な思い出
生の村上春樹の話を聴ける機会なんてそう滅多に訪れない。
というか、長い人生においても可能性はゼロに近い。
でも、僕は運よく聴くことができました。
2013年の幸運な思い出。
4月、チケットの抽選に応募していた会社から当選のメールが届く。
僕は熱狂的な信者では全然ないけれど、多くの読者とおなじく村上春樹はけっこう好きだから、チケットが当たったと知らされても驚かなかった。
「ふ〜ん、当たったんだ。好きなんだから当たるだろうな。京都だから新幹線で行かなきゃなんないけど、生の村上春樹を拝むチャンスなんてこの先絶対にある訳ない、とりあえず行こう!」と。
河合隼雄物語賞・学芸賞創設記念
村上春樹公開インタビューin京都
――魂を観る、魂を書く――
と銘打った講演は、文化庁長官時代の河合隼雄さんの物真似から始まりました。
村上春樹が慣れないという関西弁で「アイムソーリー、アイムソーリー」と河合隼雄さんのダジャレを話すと、その場の空気が一気になごむ。
講演は写真や映像の撮影も、音声の録音も禁止されていたから、代わりにメモ帳にせっせとメモを取る人たちも居ました。村上春樹が発する心に響く言葉を漏らすまいとしていたんだろうけど、さすがに会話のスピードにはついていけず、次第にメモを取る人の数は減っていったんだけど。
僕ははなからメモなんて取らず、その場の雰囲気を楽しもうと決めてました。家に帰って記憶のある内にノートに書き綴ればいいや、と思って。
ただ、結局それをやらなかった。
あの2時間半近くに及んだ講演の中で村上春樹がいったい何を話したのか、そのほとんどが記憶の片隅に消え去ろうとしていた講演の1ヶ月後。
「でも、今ならまだ間に合うこともある。」そう思って、書き残したふたつのこと。
ひとつ目、村上春樹に遭遇できそうな場所について。
本人曰く、時々、神宮球場のライトスタンドでビールを飲みながらヤクルト戦を観戦しているとのこと。村上春樹が長年のヤクルトファンだということは周知の事実だけど、神宮球場のライトスタンドと限定されれば、出会うチャンスは少しだけど広がりそうですよね。
神宮球場のライトスタンドが村上春樹ファンで埋め尽くされて、みんなが野球そっちのけで村上春樹をジロジロ見ているなんていう不思議な光景があったら、『ねじまき鳥クロニクル』に出てくる奇妙なホテルのロビーみたいで面白そうだと、僕なんかは思うんだけど。
ふたつ目、村上春樹が最近お気に入りのビールのこと。
マウイブリューイングの缶ビール
マウイブリューイングのビールは缶で販売をしていて、それは瓶では駄目なんだそうです。
このマウイブリューイングのビッグスウェル アイピーエー(Big Swell IPA)が美味い、と話していました。たぶん。
チケットに外れた人には申し訳ないんだけれど、それ以外はもうほとんど覚えていません。
新作『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』についてはいくつかのことが語られていたけど、具体的なことは憶えていないし。僕はまだ『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んでいないから、当日はネタバレして困ったんだけど。
でも、村上春樹とすごした心地のよい春の午後の感触は今でもちゃんと残っていて、ま、これでいいや、という気がします。