『中国行きのスロウ・ボート』のあらすじとまとめ
村上春樹にとって最初の短編小説『中国行きのスロウ・ボート』のあらすじとまとめ。
『中国行きのスロウ・ボート』のあらすじ
「顔を上げて胸をはりなさい、そして誇りを持ちなさい」と言った、最初の中国人。
「そもそもここは私の居るべき場所じゃないのよ」と告げた、二人めの中国人。
「いったい本当の俺は何処に生きている俺だろうってね」と話した、三人めの中国人。
「僕」が出会ったそんな三人の中国人と、「僕」にとっての中国の物語。
小説の冒頭部分
最初の中国人に出会ったのはいつのことだったろう?
この文章は、そのような、いわば考古学的疑問から出発する。様々な出土品にラベルが貼りつけられ、種類別に区分され、分析が行われる。
さて最初の中国人に出会ったのはいつのことであったか?
一九五九年、または一九六〇年というのが僕の推定である。どちらでもいい。どちらにしたところで・・・
主な登場人物
- 「僕」
- 最初の中国人
「僕」が受けた模擬テストの監督官。
【人物像】
中国人小学校に勤務している教師。
四十歳より上には見えない外見。左足を床にひきずるように軽いびっこをひき、左手で杖をついている。
自分のことを「わたくし」と呼ぶ。
- 二人めの中国人
「僕」が19歳の時にアルバイト先で知り合い、小さな出版社の暗くて狭い倉庫で三週間一緒に働いた同い年の女子大生。
【人物像】
小柄。考えようによっては美人といえなくもない。
中国人といっても日本生まれで、中国にも香港にも台湾にも行ったことがない。中国人の小学校ではなく、日本人の小学校に通学していた。
女子大に通っていて、将来の目標は通訳になること。
【家族構成】
父親は横浜で小さな輸入商を営んでいる。父親とソリが合わなかったため、駒込にある兄のアパートに同居(本人曰く「転がり込んでいた」)。 - 三人めの中国人
「僕」の高校時代の知り合い(友人の友人といったあたり)。
【人物像】
胃が悪く、医者にコーヒーも煙草もとめられている。
昔のことをひとつ残らず、その時の天気から、温度から、匂いまで覚えている。本心では忘れたいと思っているけれど、忘れようとすればするほど、ますますいろんなことを思い出してしまう。
【家族構成】
男の子の子供がひとりいる。
【仕事】
中国人専門(日本人には売らなくてもいい取り決め)の百科事典の営業。
名言
『中国行きのスロウ・ボート』に出てくる本
- 司馬遷『史記』
- エドガー・スノー:中国の赤い星
『中国行きのスロウ・ボート』で名前が挙がった有名人
- インゲマル・ヨハンソン:1959年、フロイド・パターソンに勝利しヘビー級王座を獲得した元プロボクサー。
- フロイド・パターソン:1960年、インゲマル・ヨハンソンに勝利しヘビー級王座を奪還した元プロボクサー。
- デイヴィッド・リヴィングストン:ヨーロッパ人として初めてアフリカ大陸を横断したスコットランドの探検家。
- ヘンリー・スタンレー:アフリカを探検中に遭難したリヴィングストンを発見したイギリスの探検家。
- 山下奉文:第二次世界大戦時の陸軍大将。
- アーサー・パーシヴァル:マレーの虎こと山下大将に「イエスかノーか」と降伏を迫られたイギリスの陸軍中将。
- ジュリアス・シーザー(ユリウス・カエサル):「賽は投げられた」「来た見た勝った」「ブルータスお前もか 」の言葉でも知られる古代ローマの政治家。
- ゲーテ:『若きウェルテルの悩み』、『ファウスト』で知られるドイツの詩人。
- ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン:『海辺のカフカ』のホシノちゃん曰く「とても偉い作曲家で、若い頃はピアニストとしてもヨーロッパでいちばんと言われ、演奏家としても大きな名声を得ていた。しかしある日、病気のせいで耳が聞こえなくなった。ほとんどぜんぜん聞こえなくなったんだ。でもベートーヴェンはめげなかった。まあそりゃ少しくらいは落ちこんだとは思うけど、そんな不幸には負けなかった。・・・」という、言わずと知れたドイツの作曲家。
音楽にとっての『中国行きのスロウ・ボート』
村上春樹と和田誠さんによる音楽エッセイ『村上ソングズ』にも取り上げられている曲『中国行きのスロウ・ボート(On A Slow Boat To China)』。
村上春樹がこの曲を知ったのはソニー・ロリンズの見事な演奏を聴いたからで、もしソニー・ロリンズが演奏をしていなければ、この曲を頭に留めておくことはなかったかもしれない、とのこと。
短編『中国行きのスロウ・ボート』が書かれた経緯などについても、『村上ソングズ』では述べられています。
http://sonnyrollins.com/
初出
「海」1980年4月号
収録
- 中国行きのスロウ・ボート(短編集)
- 村上春樹全作品1979~1989(3)短編集1
- 象の消滅 短篇選集1980-1991
※短編集に収録の『中国行きのスロウ・ボート』と作品集及び短篇選集に収録の『中国行きのスロウ・ボート』では内容が一部異なる。
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