吉行淳之介さんによる群像新人文学賞の選評

一つの収穫 – 吉行淳之介

『風の歌を聴け』は、あえて点数で言ってみれば、六十点の作品か八十五点(九十点といってもいい)の作品か、どうもよく分らないので再読した。その結果、これは良い作品だとおもったし、あえていえば近来の収穫である。これまでわが国の若者の文学では、「二十歳(とか、十七歳)の周囲」というような作品がたびたび書かれてきたが、そのようなものとして読んでみれば、出色である。乾いた軽快な感じの底に、内面に向ける眼があり、主人公はそういう眼をすぐに外にむけてノンシャランな態度を取ってみせる。そこのところを厭味にならずに伝えているのは、したたかな芸である。しかし、ただ芸だけではなく、そこには作者の芯のある人間性も加わってきているようにおもえる。そこを私は評価する。「鼠」という少年は、結局は主人公(作者)の分身であろうが、ほぼ他人として書かれているところにも、その手腕が分る。一行一行に思いがこもり過ぎず、その替り数行読むと微妙なおもしろさがある。この人の危険な岐れ目は、その「芸」のほうにポイントが移行してしまうかどうかにある。

その他の選考委員の選評

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