村上春樹が語るスガシカオ

スガシカオ『月とナイフ』と『黄金の月』

日本人については多くを語らない村上春樹。
その村上春樹がエッセイ『意味がなければスイングはない』の中で「スガシカオの柔らかなカオス」という章を割いて語った日本人ミュージシャン、スガシカオ。
http://www.sugashikao.jp/

最初に聴いたスガシカオのアルバムは、97年に発売されたCD『Clover』である。これが彼にとってのデビュー・アルバムになるわけだが、うちにあるディスクには「見本盤」というスタンプが押してある。レコード会社から僕のところに送られてきたと記憶しているのだが、しかしどうしてこのCDがうちに直接送られてきたのか、よくわからない。試聴盤が送られてくるなんて、あまりないことだから。いずれにせよ、そのようなわけで、僕はデビューのときからずっと、この人の音楽を時系列的に聴き続けてきたことになる。とにかく僕はそのときまで、スガシカオという名前を耳にしたことも目にしたこともなかったし、「なんか変てこな名前の歌手だな」と思いつつ、とりたてて期待もせずに、そのCDをかけてみた。何かべつのことをしながら片手間に聴いていたのだが、聴こえてくる音楽の新鮮さに、はっとさせられることになった。スピーカーの前に座り、居住まいを正して、もう一度始めから聞きなおしてみた。そして「うーん、これ、悪くないじゃん」とあらためて思った。
アルバムの中では、とくに「月とナイフ」と「黄金の月」という曲が個人的に気に入った。それ以外のトラックも、みんな悪くなかった。「イジメテミタイ」の終始ビターな暗いテイストもかっこいいし、「ドキドキしちゃう」や「ヒットチャートをかけぬけろ」のいやみのない、すらっとしたキャッチーさも捨てがたい。でも「月とナイフ」と「黄金の月」の二曲が、僕としてはとりわけ印象に残った。このCDはけっこう何度も聴き返したし、その結果スガシカオという不思議な名前は、僕の頭にしっかりとインプットされることになった。
あえて説明する必要もないと思うんだけど、「スガシカオ?そんなやつのことは知らん。CDはドイツ・グラモフォンから出ておるのか?」というような方のためにいちおうお断りしておくと、スガシカオさんはいわゆるシンガー・ソングライターである。ほとんどすべての曲の作詞作曲を自分でおこない、それを自分で歌っている。そればかりではなく・・・・・
『意味がなければスイングはない』より

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村上春樹の長編に流れていた音楽