村上春樹いわく「一人すき焼き」映画、デヴィッド・フィンチャー監督『ファイト・クラブ』


陽子さん、
というのは村上春樹の奥さんのことなんだけど、その陽子さんは
すき焼きなんか五年に一回食べれば、それでいいんじゃない
という具合に、すき焼きがあまり好きではない人なんだそうです。

だから、すき焼きがけっこう好きな(肉よりも糸こんにゃく、焼き豆腐、葱を好む)村上春樹は、結婚してから、ろくにすき焼きを食べたことがないんだとか。
それを聞いて「本当に可哀想ですよねぇ」なんて、これっぽっちも思わないけど。
村上春樹って色んな国を旅行して、美味しい物をたくさん食べていそうだから、すき焼きぐらい一生食べられなくったって、僕は同情なんてしない。

知ってますか?『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』に書いてある、生牡蠣にシングルモルトを垂らして食べた時の話を。
あれ読んでるとちょっと腹が立ってくるんですよね。読者の僕は、
「うわぁ、生牡蠣めちゃくちゃ美味そう!俺もすげー食べたい!」
と、口にたまった唾を飲み込みながらそう思うんだけど、でも、思ったところで食べられないんですよね。
だって、『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』って、スコットランドとアイルランドの話なんだもの。

と、ここまでは前置きです。
ここからが本題の「一人すき焼き」ムービーの話です。

『「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』
という、とんでもなく長いタイトルの本の中で、村上春樹がこう言っていました。

一人で食べるすき焼きもけっこう来ますけどね。一人で向こう側にまわって、「おい、肉ばっかり食べるなよな」なんて文句言ったりしてね。またこっちにまわって、「おまえ、焼き豆腐さっき二個も食べただろう」なんて言い返したりして、空しいですね。というわけで、映画「ファイトクラブ」見てください。見ればよくわかる一人すき焼きです。

村上春樹がそう言っているのを知る前から、僕はデヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』観よう観ようと思っていたんだけど、ついこの間、ようやくのこと映画を観ました!

映画を観たことがある人はもちろんご存知な訳ですが、まだ観ていない人にちょっと説明すると、『ファイト・クラブ』って男には評判がよくても、女の人が好むタイプの映画ではないです。
男と男がしょっちゅう殴りあうし、一流アスリートのスポーツを思わせる激しいセックスもあったりするし。
世の中の7割の女性からはそっぽを向かれる、そんな映画なのかもしれない。残りの2割はブラッド・ピットのファンが観て、あとの1割が『ファイト・クラブ』のファン、というのが僕の見立てです。

ただ、物語が展開するスピード感は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』に似ていて、すごく心地がいい。
幸運にもこの映画にはまれた人は、映画の最後まで一気に突っ走って、観終わった時に「この映画すげーいいじゃん!最高じゃん!」という爽快感に浸れるように思います。

話の筋や内容は全然別物なんだけど、『ファイト・クラブ』は村上春樹の『1Q84』とおんなじで、愛の物語だ!
映画を観て僕はこう思ったんだけど、どうなんでしょうね?
そして、2日続けて映画を観ながら、僕はこうも思いました。
「あっ、『ファイト・クラブ』は『海辺のカフカ』でもある」と。