レイモンド・カーヴァーの『夢』

村上春樹が翻訳したレイモンド・カーヴァーの短編集『必要になったら電話をかけて』。
この中に収められている『夢』は、「将来の夢を見る」の夢ではなく、「夜、寝ているときに夢を見る」の夢の話。

物語は主人公の「私」によって語られる。
「私」の目に映る二人の女性。
ひとりは奥さんのドティー、もうひとりは隣家に住むメアリ・ライス。
奥さんのドティーは夢を見る。「わけのわからない夢」や「記録に値する夢」などを。そして、夫である「私」にその夢について話して聞かせる。
一方、メアリ・ライスはふたりの子どもマイケルとスーザンの母親として、仕事をし、時にハミングをしながら家事をこなす。
そんな「私」の満ち足りた生活がある日、急展開する。
「私」は言う。

「ここからがかなりハードな話になってくる」

だいぶ以前に行われたインタビュー(インタビュアーは柴田元幸さん)の中で、村上春樹は自らの短編についてレイモンド・カーヴァーを例に出して語っていた。

「・・・・・・僕はチェーホフ的に始めがあって結末があってという短編を書くわけじゃないから、状況を設定してそれを前に進めていって、適当なところでぷつっと切ればいいわけですね、ごく簡単に言ってしまえば。オチがいるというんじゃないから。短編というのは、まあその切り口が勝負なわけですよね。だから予定枚数をカウント・ダウンしていって、さあそろそろこのへんで切り口をしかけようと思って、追い込んで、しかるべきところでぶったぎるんですね。そういうのの一番の好例がレイモンド・カーヴァーの短編ですよね。僕はそう思っているけど。」

村上春樹が言う「レイモンド・カーヴァーの短編」の通りに、『夢』の物語も「ここからがかなりハードな話になってくる」展開をみせ、そのハードな出来事が「私」によって締めくくられる。