リック・ネルソン『ガーデン・パーティー』

ご存知のように – といってもご存知ないかもしれないけれど – リック・ネルソンは人気テレビ番組『陽気なネルソン』(日本でも日曜日のお昼にNHKでやっていた)の子役として物心ついたときから全国的な人気ものであり、歌を歌うようになってからはエルヴィス・プレスリーに迫るスーパー人気歌手になった。でも彼は自分がただのハンサムなアイドル歌手として捉えられることに常に不満を抱き、真剣に音楽的キャリアを追求し続けた。ビートルズの出現と前後して、一九六〇年代の中頃に起こった音楽的トレンドの急激な変化によって人気が凋落したあとも、リックは自分なりの新しいレパートリーを黙々と追求し、懐メロ歌手として人前に立つことを激しく拒否した。そしてそのためにマディソン・スクエア・ガーデンでのコンサートでは数万人の観客の罵倒を浴びることになった。昔のヒット曲を歌うことをかたくなに拒否したためだ。しかしそのような目にあっても、彼は妥協というものをしなかった。彼はそんな熱い思いを託して『ガーデン・パーティー』という曲を書いた。リックはその中でこう歌った。「もし思い出の他に歌うものがないのなら、僕はトラックの運転手にでもなるさ(If memories were all I sang, I’d rather drive a truck)」と。『ガーデン・パーティー』はミリオン・セラーとなり、リック・ネルソンは見事に復活を遂げた。
村上春樹『辺境・近境』

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