村上春樹新聞

ドーナツのレシピには載っていない、ドーナツの穴のこと

ドーナツのレシピには載っていない、ドーナツの穴のこと

ドーナツの穴を空白として捉えるか
あるいは存在として捉えるか

そう言ったのは、村上春樹がずいぶん昔に書いた小説『羊をめぐる冒険』の主人公。
このドーナツ発言を初めて聞いた時、僕はとてもびっくりした。なぜって、これまでドーナツの穴を空白としてしか捉えていなかったから。ドーナツの穴が存在しているなんて、これっぽっちも考えなかった。
より正確に言うと「彼(主人公)」はこう言っていました。

「ドーナツの穴を空白として捉えるか、あるいは存在として捉えるかはあくまで形而上的な問題であって、それでドーナツの味が少しなりとも変わるわけではないのだ。」

ドーナツのレシピ本って何冊も出版されているし、ネットにもレシピが溢れている。でも、レシピにはドーナツの作り方は書いてあっても、ドーナツの穴のことは書かれていないですよね。

「とろこで、ドーナツの穴はいつ誰が発明したかご存じですか?知らないでしょう。僕は知っています。」

そう言って、ドーナツ好きの村上春樹がエッセイ『村上ラヂオ』にドーナツの穴の誕生秘話を書いています。
本当は『村上ラヂオ』の「ドーナッツ」という項を読んでもらうのがいいんですが、意地悪だと思われたくないので少し書いておきます。

ドーナツの穴が人類の歴史に初めて登場したのは1847年、アメリカでの話。
小さな町のパン屋さんで働いていた少年が揚げパンを揚げていた時のこと。揚げパンになかなか火が通らなくって、そこで少年はパンに穴を開ければいいと気づいたんだとか。
それが、ごく簡単にいうとドーナツの穴、誕生の瞬間なんだそうです。

以上で、ドーナツの穴の話はおしまいです。
ドーナツのレシピと一緒に知っておくのもいいかもしれないですね。