『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』『ダンス・ダンス・ダンス』の主人公の「僕」

『風の歌を聴け』
『1973年のピンボール』
『羊をめぐる冒険』
『ダンス・ダンス・ダンス』
『双子と沈んだ大陸』(短編)
の主人公「僕」について。

経歴

  • 1948年12月24日 誕生!
  • 1963年
    【春】堰を切ったように突然しゃべり始める(それ以前は無口な少年だった)。
    14年間のブランクを埋め合わせするかのように3ヵ月かけてしゃべりまくり、7月の半ばにしゃべり終えると40度の熱を出して3日間学校を欠席。
    【夏】股の間にひどい皮膚病を抱えた中学三年時、絶版になったままのデレク・ハートフィールドの最初の一冊を偶然手に入れる。
    【季節?】女の子との初めてのデートでエルヴィス・プレスリーの主演映画を観る。
  • 1965年(頃)
    修学旅行の時に落としたコンタクト・レンズを捜してあげたお礼に、女の子からビーチ・ボーイズの『カリフォルニア・ガールズ』のLPを借りる。
  • 1966年
    夕暮の繁みの中、お互いに相手を愛していると信じこんでいたクラス・メートの女の子と朝日新聞の日曜版の上で寝る。
  • 1967年
    【春】鼠と出会う。フィアット600に泥酔して乗り80キロのスピードで公園に突っ込み車は大破。ただ、奇跡的に怪我ひとつしなかった。
  • 1969年
    【季節?】大学の図書館で仏文科の女子学生(「僕」のペニスを「あなたのレーゾン・デートゥル」と呼んだ)と出会う。
    【季節?】大学で牛の解剖。牛の胃の中あったひとつかみの草をビニール袋に入れて家に持ち帰り、机の上に置き、以後何か嫌なことがある度にその草の塊を眺めながら「何故牛はこんなまずそうで惨めなものを何度も何度も大事そうに反芻して食べるんだろう」と考えた。
    【10月21日】新宿で最も激しいデモが吹き荒れた夜、人生で二人目に寝た女の子(ヒッピー)と出会う。
    【1969年8月15日〜1970年4月3日】358回の講義に出席、54回のセックスを実行、6921本の煙草を吸う。
  • 1970年
    【春】仏文科の女子学生(人生で3番目に寝た女の子)がテニス・コートの脇にあるみすぼらしい雑木林で首を吊って死んだことを知らされた時、6922本めの煙草を吸う。また、彼女が死んだ半月後、ミシュレの「魔女」を読む。
    【8月8日〜8月26日】鼠と一緒に、まるで何かに取り憑かれたように25メートル・プール一杯分ばかりのビールを飲み干し、ジェイズ・バーの床いっぱいに5センチの厚さにピーナツの殻をまきちらす。
    【8月某日】午後中プールで泳ぎ、家に帰って少し昼寝をしてから食事を済まし、8時過ぎ車に乗って散歩にでかけ海岸通りに車を停めてラジオを聴きながら海を眺め、30分ばかりして急に誰かに会いたくなり(海ばかり見てると人に会いたくなるし、人ばかり見てると海を見たくなる)ジェイズ・バーへ行き、1時間ばかりかけてビールを3本飲む。そして、ジェイズ・バーの洗面所で左手の指が4本の女の子と出会う。
    【8月某日】ラジオN・E・B「ポップス・テレフォン・リクエスト」のDJ(犬の漫才師)と電話で会話を交わす。後日、特製のTシャツをゲット。

「僕」とジェイズ・バー

  • ジェイズ・バーのカウンターには煙草の脂で変色した一枚の版画が(ロールシャッハ・テストにでも使われそうな図柄)がかかっていて、どうしようもなく退屈した時などは何時間も飽きもせずその絵を眺めつづける。
  • ジェイズバーの重い扉をいつも背中で押し開ける。また、いつも同じカウンターの端の席に座る。

人物像・性格

  • 前は海、後ろは山、隣りには巨大な港街がある、人口7万ちょっとの小さな街で生まれ、育ち、初めて女の子と寝た。
  • 文章についての多くをデレク・ハートフィールドに学んだ(殆んど全部というべきかもしれない)。
  • 高校生の終わり頃(誰もがクールに生きたいと考える時代)、心に思うことの半分しか口に出すまいと決心する。何年かにわたってそれを実行し、ある日、思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていた。
  • 東京にある大学に通学。大学では生物学を専攻(動物が好き。理由は笑わないから。ただし、犬や馬は少し笑う)。
    大学の実験室では神経痛の牛に会ったことがある。また、猫を使った実験では、2ヵ月の間に36匹もの大小の猫を殺した。
  • 機動隊員に前歯を叩き折られたことがある。
  • レーゾン・デートゥル(存在理由)をテーマにした短い小説を書こうとしたことがある。また、その間じゅう人間のレーゾン・デートゥルについて考え続けた結果、奇妙な性癖(全ての物事を数値に置き換えずにはいられないという癖)にとりつかれた。
  • 大きな鼻輪をつけ、口に白いバラを一輪くわえて笑っている牛が、ボンネットに白ペンキで大きく描かれた車に乗っている。絵の作者は車の前の持ち主。
  • 21歳の時点で3人の女の子と寝ている。
  • サム・ペキンパーの映画が来るたびに映画館に行き、帰りに日比谷公園でビールを2本飲みながら鳩にポップコーンをまく。
    サム・ペキンパーの映画では『ガルシアの首』がお気に入りで、ペキンパー以外だとアンジェイ・ワイダ監督『灰とダイヤモンド』が好き。
  • 夏になるたびビーチ・ボーイズの「カリフォルニア・ガールズ」のレコードを棚の片隅からひっぱり出して何度も聴き、カリフォルニアのことを考えながらビールを飲む。ちなみに、レコード棚の隣にある机の上には、大学生の時に解剖した牛の胃の中から取り出し持ち帰った草の塊(乾いてミイラのようになっている)がぶらさがっている。
  • 他人の家で目覚めると、いつも別の体に別の魂をむりやり詰めこまれたと感じる。
  • 時折嘘をつく。
  • 夜中の3時に寝静まった台所の冷蔵庫を漁るようなところがある。

その他エピソード

  • 初めて鼠の家を訪れた時、鼠は好物の焼きたてのホットケーキにコカ・コーラを注いだ不気味な食べ物を胃の中に流しこんでいる最中だった。
  • 十何年間、兄と交代で父親の靴を磨き続けた。
  • 小さい頃はひどく無口な少年だったので、その治療のため週に一度、日曜日の午後、電車とバスを乗り継いで医者(両親の知り合いの精神科医)の家に通い、コーヒー・ロールやアップルパイやパンケーキや蜜のついたクロワッサンを食べながら治療を受けた。
  • 文章を書くのはひどく苦痛な作業だけれど楽しい作業でもあると感じている。それは、生きることの困難さに比べ、それに意味をつけるのはあまりにも簡単だから。
    10代の頃、その事実に気がついて一週間ばかり口もきけないほど驚いたことがある。
  • テレビの「名犬ラッシー(初代)」が一番好きだった。

家族構成

  • 父:「子供はすべからく父親の靴を磨くべし」という家訓を掲げている。律儀な人物。
  • 母:ひどく無口だった「僕」を心配して、知り合いの精神科医の家に連れていく。
  • 兄:部屋いっぱいの本とガール・フレーンドを一人残したまま理由も言わずアメリカに行ってしまう。
  • 妻:「僕」と一緒にサム・ペキンパーの映画を観に映画館に行く。サム・ペキンパーの映画の中では『コンボイ』が最高だと思っていて、ペキンパー以外だとイェジー・カヴァレロヴィチ監督『尼僧ヨアンナ』が好き。
  • 祖母:「暗い心を持つものは暗い夢しか見ない。もっと暗い心は夢さえも見ない。」といつも言っていた。
    享年79歳
  • 叔父さん1:「僕」にデレク・ハートフィールドの本をくれる。その3年後、腸の癌を患い、体中をずたずたに切り裂かれ体の入口と出口にプラスチックのパイプを詰め込まれたまた苦しみ抜いた末、死去。
  • 叔父さん2:終戦の2日後、自ら埋めた地雷を踏んで、上海の郊外で死去。
  • 叔父さん3:手品師として全国の温泉地を営業。

交友関係

  • ジェイ:ジェイズ・バーのマスター。
  • 左手の指が4本の女の子:ジェイズ・バーにて出会う。レコード屋勤務。
  • 最初に寝た女の子:高校生の時のクラスメート。卒業の数ヵ月後、別れる。
  • 2人目に寝た女の子:一文無しで寝る場所もなく乳房さえ殆どないヒッピー。
  • 3人目に寝た女の子:「僕」のペニスを「あなたのレーゾン・デートゥル」と呼んだ。
  • 大学生のころ偶然に知り合った作家:「僕」に向かって「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」」と言った。

参考図書

『風の歌を聴け』